書くことについて

昨年の年末に『魂の文章術』という本を読んだ。ずいぶん昔の、アメリカ人の女性が書いた本で当時はベストセラーになったらしい。

本にあった「世界中で一番くだらないことを書いてもいい」という言葉に「ああ、そうだよね…」と初心にかえったような気持ちになって、書くことに対してとても勇気づけられた。
真っ白なノートに何かを書こうとする時、それはもうただ書きたいから書くだけだ。誰かに見せるつもりもないし、有意義なこと、立派なことを書かなくても良い。散文になろうが、メモになろうが、買い物リストだろうが、誰かの悪口だろうが、恥ずかしい恋文だろうが、何を書いたって良い。
それは本来、何かを表現するときの初期衝動であり根源的な欲求のはずなんだ。
誰かに「こんな表現おかしいじゃないか」「くだらないじゃないか」などと言われる必要もない(むしろうるさいのは自分の中にいる批評家と編集者だ)。
おかげで随分と楽にノートに向き合えるようになった。

「世界中で一番くだらないことを書いてもいい」

文章を書いたり、曲を作って歌うとき、僕はこの言葉を呪文のように唱え続けている。

だけど、作ったものを人に見せて評価されたり、いいねされたり、承認されたり、あまつさえお金をもらおう、なんて考えると途端に話がややこしくなってくる。

それは創作の本質とは少し違う、他者とどう関わるのか、というテーマの話だ。
多分だけれど、この時代、多くの人が評価と承認を求めている。僕だって当然、評価されたいし認められたい。

だけどそれだけじゃないと思う。

創作したものを他者に、世の中にぶつけようとするときっていうのは、そんなに安易な感情だけじゃないはずだ。
存在の確認であったり、価値観の戦いであったり、驚きであったり、ひらめきであったり、ぶつかったことで生まれるものが楽しみであったりと、まあ色々と言葉にはできるかもしれないけれど、そこにはもっとすごいものが潜んでいるんじゃないだろうか、と僕は密かに思っている。