チャイムの思い出

学校のチャイム(キンコンカンコン)がどういう仕組みで鳴っているのか、自然公園のベンチで本を読んでいる時に不意に鳴り響いたチャイムを聴いて思い出していた。学校のそれとはだいぶ違ったメロディを聴いているうちに、すっかり忘れていた中学生時代の記憶が徐々に鮮明になってくる。あのとき僕が鳴らしたチャイムはこれよりももっとデタラメなメロディでメチャクチャなリズムのチャイムだった。

中学の一年生の頃、一学期の委員会を決める時にみんな面倒な仕事をやりたくなかったのか、誰一人手を上げず先生が困っていた。僕はさっさと終わらせたかったから、なんとなくやってもいいなと思っていた放送委員に立候補した(その後は皆手を上げ始めた)。
放送委員の仕事。あまり記憶がないんだけどなんとか思い出してみると、昼休みや業間の放送をやっていたんだと思うんだけど、何を放送していたのか、どうやって機材を使っていたのか、全く思い出せない。
覚えているのは上級生、つまり二年生か三年生の女子の先輩と一緒にやっていたこと。それからその先輩がいつも漫画本を放送室に持ち込んで読んでいたことだけだ(『おまたかおる』という今考えてもひどいタイトルの漫画だった)。でも記憶がないということはきっと簡単な放送で機材の操作も簡易なものだったんだろう。放送委員の仕事はつつがなくこなしていた、と思う。

ある日、放送委員の仕事をやっている最中、学校のチャイムが鳴ったその時に僕はそれを発見してしまった。チャイムが鳴っているその間、放送室の片隅にある金属ボックスが怪しげに、唸るような機械音を発していることを。
壁面に設置された金属ボックスを確認してみるとガラス窓のようなものが付いている。そこから中の様子を伺ってみると機械仕掛けの何かが忙しそうに動いていた。好奇心を盛大にそそられて、気がつけば僕は金属ボックスの扉を開けてしまっていた。
そこには小さな鉄筋のようなものが4つ貼り付けられていて、それを小さなハンマーが叩いていた。ハンマーはゼンマイ仕掛けの機械が動かしているようだ。小さなハンマーが小さな鉄琴を叩くその音をアンプで増幅させて学校中に鳴らしていたのだ。


「チャイムってこんなアナログな仕組みで機械が演奏していたのか!」

と驚き、同時に学校の誰もが知らない秘密を知ったような気持ちになって興奮したことを覚えている。
そして、多分、同時にもう手が出ていたと思う。考えるより先に手が出てしまう性質だった。
僕の手がハンマーを触ったり、動かしてみたり、引っ張ってみたり、弾いてみたりするやいなや、それは小さな鉄琴に触れてキンコンカンコンを奏でた。
いや、正確にはそれはキンコンカンコンではなかった。まあ4つしか音がないから音階は同じなんだけど、順番がデタラメだったのでチグハグな、コンキンカンキン、コンコンキン、カンコンキンなど珍妙なチャイムが鳴った。アンプで増幅されて学校中に鳴り響いた。
僕は今よりもずっとアホだったので、予想外に大きな音が鳴って驚きながらも、しばらくの間遊んでいたら先生方が放送室に駆け込んできた。多分こってりと叱られたと思う。あんまり覚えていないけど。

このようにして僕は度々しょうもない騒動を引きおこしながら義務教育の日々を送っていた、と思う。というのも何度も書いたけどあまり記憶がないのだ。

だけど書きながら、中学のときは「毎日楽しいな」と思っていたことを思い出していた。

人の記憶は思い出すたびに改ざんされ捏造されている、と何かの本で読んだ。
このチャイムの思い出も、楽しかった思い出も、きっと事実とは違う部分がたくさんあるんだろうけど、それらを確かめる術もない。